2018.09.28

Interview

ここここ|オカモトマサヒロさんインタビュー(後編)

前編はオカモトさんが最近ハマっているトウガラシの委託栽培について伺った。後編は前回(前編後編)も登場したうじゃについて、オカモトさんなりのおもしろさ、アフリカ研究やトウガラシ栽培との共通点を探っていく。

アフリカの経験を日常生活にいかす

——アフリカではどんなことを研究していたのですか?

オカモト: アフリカ研究の指導をしてくれたのが掛谷誠という人類学者なんだけど、掛谷さんは研究と実践との二つを絶えず行き来しながらアフリカと関わってきた人なんですね。アフリカ的な発展をずっと模索してらっしゃった。掛谷さんはアフリカ研究をとおして理想的な社会の実現を目指してらしたんですね。僕はアフリカ研究はドロップアウト組だけど、理想的な社会の実現という夢は今も持ち続けている。一時期、低下してたんだけど、最近またそうした気持ちが湧き出てきた。アフリカでフィールドワークをしていた時もそんなことを考えながらやってました。

アフリカで僕が興味をもったのは、人と自然のつきあい方と民族間関係のようなものになります。彼らの自然に負荷をかけない環境利用の仕方、そして他の民族との関係のつくり方には素晴らしいものがあるんですね。村に滞在しながら、彼らのやり方を何とか理解しようと日々もがいてました。

オカモトさんが滞在していたアフリカの村。草で葺いた屋根の木造の家屋を作り、約50人が暮らしているという。電気や水道は通っていない。

——トウガラシの委託栽培につながるのはどのあたりになるんでしょうか?

オカモト: 民族間関係がひとつのモデルかなって思ってます。民族と民族とのつながり方ですね。そこには美しいつながりだけでなく、対立なんかもあるんだけど、対立関係にある集団のあいだにも相互扶助的な関係が認められたりするのですね。平時はいがみあっていても、何かあったら助け合うことがある。

僕がお世話になったのは、牛をたくさん飼っている人たちの村でした。村の人口が50数人なのに対し、牛は全部で100頭以上いました。周辺には他の民族の村があって焼畑農耕をしながら暮らす人たちがいました。彼らは牛をもってないんですね。

牛の世話って、放牧に連れて行ったり、夕方には牛囲いに連れ戻したり、ミルクを搾ったりとか、数が多いとけっこう手間がかかるんですね。そうしたなか1年の半分くらいの期間、牛を保有する人が、他の民族の人に牛を預ける習慣があります。牛の委託ですね。毎年預けるため両者の関係は親密になっていきます。

アフリカでは牛はもっともだいじな財産。お金は価値が下がってしまうことがあるが、牛はその心配がない。ミルクが搾乳でき、糞は肥料にもなり、牛耕や運搬にも使用できる。結婚の時に夫側から妻側に支払われる婚資も牛である。

——牛が人と人とをつなぐわけですね。貸す側と預かる側はそれぞれどんな思惑があるのでしょうか。

オカモト: まず牛を預かる側の一番の目的は牛の糞なんですね。牛の糞は畑の良質な肥料になります。畑の中に木柱にワイヤーを張った牛囲いを作って、何日かごとにその牛囲いを移動させるんですね。そうして牛の糞を畑全体にゆきわたるようにするわけです。もともとは牛を貸し出す側がトウモロコシの畑でやってきた方法なんだけど、牛を預かった側にもそれが普及し、焼畑で拓いた畑に牛囲いを作るようになったんですね。

焼畑と牛糞がセットになった在来農法は世界でもほとんど聞いたことがありません。一種の技術革新と言えます。一般的に焼畑は何年かしたら放棄されるんだけど、牛囲いをいれることで放棄までの耕作期間が延びるわけで、結果的に森林の保全にもつながってるわけです。

もうひとつ牛を預かる側は、その期間、牛のミルクを自由に搾ってよいことになっています。ミルクは動物性のタンパク質としてもありがたいし、売って現金化することもできるんですね。牛のミルクをヒョウタンなどの専用の容器に1~2晩いれておいたらドローっとしたヨーグルトのようなサワーミルクになるんだけど、あれは忘れられない味です。

牛のミルクを入れるヒョウタンの容器。左は牛の鳴き声に似た音がする楽器。牛の群れを長距離移動させる時にこれを鳴らして誘導する。

——オカモトさんの話、食べ物の話題が多いですね。それで牛を貸す側の狙いは牛の世話から解放されるというになりますか?

オカモト: それがもっとも大きいですね。牛の世話をするのは10代から20代の若者が多いんだけど、特に10代の少年は牛の世話やると学校に通えなくなってしまうんですね。だけどおもしろいのは、牛の世話しなくてよくなったら学校に通うかと思ったら大間違い。

彼らは学校には行かず、木琴たたいて遊んでるんですね。だから村には小学校中退っていう人がかなりいます。長さ2メートルくらいの手づくりの木琴が村ごとにあって、それを何人かで演奏するのが彼らの楽しみなんです。

いっぽう牛を貸す側の人たちは森林資源へのアクセスが悪いので、家屋を建てる時の木材や、煮炊きのための薪木などが欲しい時は気軽に頼めるんですね。彼らは鍛冶の技術ももっているから鍬や斧が欲しい時も注文できます。こうした場合にはお金のやり取りがあるけど、気軽に注文できる知人がいるって便利ですよね。

牛が他の民族の村に移動する時、村人総出で牛を見送る。家畜が季節的に異なる場所へ移動する牧畜形態を移牧と呼ぶ。

——牛の委託そのものにはお金は介さないのですか?

オカモト: お互いにメリットがあるわけだから、お金を介する必要性はないわけですね。お金を介さないからこそ何か頼みやすい関係ができてるのかなとも思っています。このように違う背景をもつ人たちがうまくやっているのを見ていて、トウガラシの委託栽培もこんなようになったらいいなと思ってますね。トウガラシの場合、僕は栽培する場所が得られるという利点があるけど、置いてくれている人たちにどういうメリットがあるのかはこれから明らかになってくるはず。まだ一年目なのであせらずいきます。

自分たちの新しい芸能を作る

——なるほど。トウガラシの委託栽培は、アフリカ研究の延長にあるということがわかりました。オカモトさんから見ると即興楽団うじゃもアフリカの経験とつながってますか?

オカモト: そうですね。僕が初めてうじゃを経験した時、あっこれはアフリカだ!って思ったんですね。うじゃがアフリカの太鼓を使っているということだけではなく、ちょっとかっこつけた言い方をすると、その構造的なところで似てると感じたわけです。

——それはどういうことですか?

オカモト: アフリカの民族って、それぞれ違う生活スタイル持ってるんですね。ある民族は牛たくさんもってたり、漁撈に特化してたり、また違う民族は焼畑農耕やってるとか、サツマイモ栽培をいっぱいやってるとかね。生産するものが異なるからこそ物々交換などのネットワークができるわけです。そんな感じのアフリカの地域社会像が僕の中にまずある。

うじゃなんだけど、その場にいろんな人たちいるわけですね。太鼓を叩く人もいれば、声を出す人もいる、踊る人もいる、車椅子でこうやって動いている人もいる。バラバラな人たちがしだいに呼応し合っていくんですね。

アフリカの民族集団はそれぞれ個性があるからこそ、互いにつながる意味があるわけで、一緒だったらそうはいかない。バラバラで多様な個性がひとつのハーモニーを奏でるという点で二つは同じだと思ったわけです。

——ナカガワさんはそのあたりはどう受け止めますか?

ナカガワ: 私はアフリカのことはよくわからないけど、オカモトさんの指摘は前にも聞いていて、なるほどーと思ったことはあります。うじゃの基本は即興音楽だけど、やっぱりよりよい社会にしたいという大きな目標があるので、オカモトさんみたいに新しい視点でうじゃを見てくれるのはありがたいですね。

右からナカガワエリさん、オカモトさん

——オカモトさんはうじゃとは具体的にどんな関わり方をしてるんですか?

オカモト: あいかわらず太鼓は上達しないし、踊りなんか人に見せられるものではない。それでもうじゃに関わっているのは、音楽や踊り以外でも関わる方法があるからなんですね。

例えば語り。うじゃのステージで僕は何度かナレーションのようなことをしたことがあるんだけど、それがけっこう楽しい。獅子舞を物語仕立てにしてみたり、ステージと観客とを宇宙人と地球人に見立ててみたりね。

徳島県の過疎化がすすむ山村での祭り(徳島県美馬郡つるぎ町一宇久薮のあじさい祭りに即興楽団うじゃが参加してるので先日僕も初めて行ったんだけど、そこでは綱引きをうじゃのパフォーマンスに取り入れてるんですね。そこで東と西をどのような設定にしようかとみんなで話し合い、結局は東を外からくるマレビトとし、西を土着の人としたんですね。東をうじゃのメンバーがやって、西は地元の人にお願いしてね。東と西との綱引きに観客も参加してもらい、最後は太鼓やドラの音に合わせて綱をもって会場を一周しました。両者引き分けーってなってね。あれは楽しかった。

ナカガワ: あの綱引きは地元の人たちもよろこんでたね。おそらく「よそ者」と「地元民」という設定が村の人たちのツボにはまったんだと思います。あとオカモトさんには、うじゃ芸能研究会などでも手伝ってもらってます。

——うじゃ芸能研究会??!

オカモト: もともと僕は芸能っていうものに興味があるんですね。民俗芸能やちょっとあやしい路上の芸能とかね。折口信夫の勉強会をやってるのもその関心とつながってる。折口信夫の芸能史研究とかおもしろいですよ。

ナカガワさんや僕も含めて、うじゃに集まってくるのは故郷喪失者というか、地元の祭りとか芸能に縁が薄かった人が多いんですね。それで自分たちの芸能を作りたいって声があがってきて。じゃあそれならみんなでいろいろ芸能を勉強するところから始めようということで、世界の民族音楽をテーマとしたワークショップやったり、祭りや伝統芸能などを見学に行ったりするようになったわけです。

それともうひとつ、毎年のお盆には「うじゃのお盆さん」というのを大阪で3~4日かけてやってるんだけど、初日の夕方はみんなで練り歩きなんかをしてます。釜ヶ崎から新世界を通って四天王寺まで、楽器鳴らしたり、声を出したりしながら歩くんですね。これも芸能研究会と通じる試みで、みんなで新しい盆行事を作ろうっていう狙いがあります。今年もやりました。

うじゃのお盆さんの練り歩き(2018年8月12日)。新世界の通天閣の下でのパフォーマンス。

——おもしろそうですね。オカモトさんが人類学や民俗学でやってきたことが生きてるわけですね。

オカモト: そうかもしれないですね。アフリカ研でのフィールドワークで経験したり学んだことを日常の中で実践できたらたらいいなって思ってます。そうした実践をまた何らかの形でフィードバックするのがいまの目標かな。

右下の中で毎日位置が変わる

右下の中でも、自分の位置は固定しておらずぐるぐると移動しているようなイメージ

——今までお話してくださったオカモトさんの活動を右下っぽいと思いますか。

オカモト: あの図だと右下になるだろうね。別に誰かと競っているわけでもないし。むしろ競うのがナンセンスだとも思うようになってきている。横軸は保守的か改革かってなるんでしょ? 僕自身は世の中変わらなければいけないという気持は強くあります。

——どういうところが、右下っぽいですか。

オカモト: 新自由主義的な競争はもういいよねって感じだよね。そんなやり方が持続的であるわけでもないし。アフリカで感銘受けたのも、彼らの自然や他者との「共生」の仕方がいかに見事かっていうことなんだよね。大上段にかまえずにさりげなくやってしまうところが素晴らしい。けっして競ってはいない。

だから僕も日々の中でたとえ小さいことでも何かやっていって、それを誰かが面白いと感じてくれたりしたらいいなって思ってます。あと、保守的なものも実は僕は嫌いではないんだよね。祭りとか芸能とはそういう性質をもっている、ただ、文化財保護みたいに固定化されてしまって継承が目的となってしまうのはどうかなって思ってます。

社会の変化に応じて祭りの形も変化していくべきだからね。既存のものをベースに新しいものを生み出すのが祭りや芸能の本来の姿だと思ってます。即興楽団うじゃの可能性もそこにあるのではないかな。

——オカモトさんの考え、何となくわかったような気がしますが、ちなみに右下でどのへんですか。

オカモト: 一か所、固定した点であるんじゃなくて、ぐるぐると移動しているようなイメージかな。日々自分の考えも変わるしね。

——毎日変化しているという感じですか?

オカモト: そんな感じですね。自分の中に変わらない部分と日々変化する部分とがあるんだと思ってます。最後に一言なんだけど、来年もトウガラシの委託栽培はやる予定なので、置いてもいいよという人が増えたらうれしいです。

オカモトさんは特に何かの団体のリーダーというわけではない。はたから見たら趣味を探究している物好きな人のように見えるかもしれない。しかし、何に役に立つのかわからないけど、好きなことや興味あることを研究したり実践したりするということは、自分の価値観を練って、自分だけにしかない小さな世界をつくり上げるということだ。そういう日常の中で自分で小さな世界をつくり上げ、大事にする営み自体が右下ぽいと感じる。

オカモトさん、ならびにインタビューに快く仕事場を貸してくださった髙津さん、ありがとうございました。

インタビュアー:太田明日香(取材日:2018年7月4日

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