2018.06.22

Interview

フリーランスの企画人として、当事者性と表現に関わる活動を続ける汐月陽子(しおつきようこ)さん。前編では、彼女の活動の根底にある経験や思想、そして文学への眼差しについて語っていただいた。後編では、「ゲニウス・ロキ探偵社」のまちあるきツアーと「観光読書会」についても詳しく伺いつつ、企画や作品に対する思いをさらに探りたい。

ありえたかも知れない存在や視点を見せる

——企画や表現活動をする上で、こだわっていることや譲れないことって何かありますか?

汐月: 「ありえたかも知れない存在や視点を見せる」ってことでしょうか。例えば、ゲニウス・ロキ探偵社でやっている「創造観光」と題したまちあるきツアーでは、戦国時代に豊臣秀吉によって作られ、京都の「洛中」と「洛外」を分けていた「御土居(おどい)」と呼ばれる巨大な土塁のあった場所、つまり「御土居跡」を歩きながら、ガイドの解説を味わったり、物語の朗読を鑑賞したりしていくんです。ところどころで、私が書いた短編小説を朗読で挿入していくんですが、「あ、今この場所のことだ」ということがわかる設定になっています。それと同時に、その物語はあくまでも私が考えたことで、フィクションだということもわかるようになっています。

汐月さんの手による短編小説は、受付時に手紙として参加者に配られ、決まった場所に来たら全員で開封して朗読が始まる。

——ほぉ~。面白そうですね。

汐月: 「創造観光」の「創造」は、「想像」ともかけていて、「ここに、そういう人がいたかもしれないんだな」とイメージできる作りにしてるんですね。現在主流だとされている視点とか、参加者の方が今持っている視点とは別の視点に気づいてもらえたらうれしい。疑似体験……というよりは、「他者ってわかんないものだよな」ということを、認識してもらうという感じですね。「勝手に共感したりしてるけど、本当は全然違うのかも……」というようなことを感じられる余地を残して、作っています。

傷ついていてもいなくても 「汎用性のある態度」で

——どういうきっかけで「創造観光」は始まったんですか?

汐月: 私が生まれ育った東京を出てきた大きな理由のひとつは、実はお付き合いしていた人と別れようと思ったからなんです。

——ほー。とてもプライベートな理由だったんですね。

汐月: 別れようと思った理由は全く別のところにあるのですが、と前置きしつつ……その人はいわゆる被差別部落に生まれた人で、私は、彼の当事者性に非当事者としてどういう風に関わったらいいのか、ずっと迷いながらお付き合いを続けてきました。私は、初等教育もまともに受けてないし、彼に出会うまでは被差別部落のことって全然リアルに知らなかったんですね。

——私も関東で育ちましたが、関西と比べると、関東では被差別部落の問題に接する機会が少ない印象がありますね。

汐月: 「創造観光」のプログラムでは、京都市内の被差別部落に関する資料館なども多く訪れ、土地の歴史に触れます。恋人とは別れましたけど、関西に来た以上は、被差別部落についてちゃんと勉強してみたいと思って、そして、やるからには「せっかくだから仕事にしたい!」って陸奥さんに相談したんですね。先にその意思を伝えて、陸奥さんに教わりながら私も色々と勉強して、ツアーを作っていった感じでした。2年目からは自分の創作物を取り入れていくことになって、お客さんの見方を固定しない、「啓蒙」しすぎない見せ方を考えるようになりました。

——作ったプログラムを体験してもらう中で、回復的なことも意図してるし、打撃力を持つことも意識しているという感じですか?

汐月: そうですね。傷ついてない人にもどんどん来てもらいたいので、回復に主眼を置いているわけではないのですが。それでも、参加者の中にはいわゆるレイシャルマイノリティ(外国籍であるなど、その社会の中で民族的・地域的に少数派である人達)の人もいらしたりして、ご自身のアイデンティティと照らし合わせながら感想を伝えてくださることもあるので、そういうご感想にはやはりひときわ感じ入るものがあります。ただ、私自身は、マイノリティであるとかそうでないとか、傷ついているとか傷ついていないとかの前提にそもそもあんまり立っていないんですよね。傷ついていようといなかろうと、傷ついている他人に関わるのであろうと、どんな前提であったとしても、同じ社会を生きる上で一定の「汎用性のある態度」みたいなものがきっとあると思っているんです。だから“生きづらさ”についても、ともすれば「自意識やアイデンティティの問題」とか「関わる人の人格や差別心の問題」とかいうふうに語られがちですけど、そこはそんなに重要だと思っていなくて、単にテクニックの問題で解決できる部分も大きいと考えてます。テクニックなら、教えることができるし、できるようになれば、“生きづらさ”は減らせると思うんですよ。

——汐月さんが書かれた「魔女の名乗りについて」というタイトルのFacebook記事を読ませていただいたんですが、そこにも、宗教学者のミルチア・エリアーデの「未開社会の呪術師や呪医、もしくはシャーマンはたんなる病人ではない。彼は何よりも、全快した病人であり、自ら治癒するに成功した病人である。」という言葉を借りて、ご自身がこれに該当すると書かれていましたよね。

参考URL:「魔女の名乗りについて」
ご自分の経験から得た、いわば“自ら治癒する方法”を伝えているような感じなのでしょうか?

汐月: それもありますね。ただ「治癒」って言ってしまうと、どうしても傷つきからの回復のお話みたいになってしまうので……私なりに言い換えると、「経験をまるっと飲み込む力を呼び覚ましたい」っていうようなことなんです。私が関心を持っているのは、「個人の引き受けた体験が、そのひとの内部でさまざまな葛藤を経て、社会に再びぶつかり揺さぶっていく過程」なんですね。それを一言で「当事者性と表現」と言ってしまっているんですけど、その一連のプロセスが社会の構造に対して打撃力を持つことに希望を抱いています。マイノリティであるかどうかや、大きな「傷」の記憶があるかどうかに関わらず、社会に生きていれば、誰でも他者と向き合ったり、他者の壁にぶちあたったりする機会はありますよね。そういうときに違和感や不平等を感じる機会が多いことが、いわゆるマイノリティや傷を持っている人のしんどさだと思うんです。属性に関わらず、それぞれがその格差を乗り越えて、経験をモノにしていくための体と心と頭のレッスンができたらと思っていて、その機会を社会に提供するべく企画や作品をつくっていますし、表現する人を支えたりしているんだと思います。

生きることを豊かにするための「観光読書会」

2017年には、中崎町のカフェに併設された部屋を借りて行われた観光読書会。「今年は、南森町のよりくつろげるムードの会場を借りたいと思ってます」とのこと。

——「観光読書会」についても、もう少しお伺いしたいです。

汐月: 私自身が、批評や哲学、社会学の専門書を読むことで、自分の問題を解釈したり、人に説明したりするのに役立ててきました。人文書とか哲学書って「難しい!」ってなりがちですけど、私はそういう本に生きることを助けられてきたので、「自分が生きることを豊かにするために人文書を読んでもいいんだよ」と言いたくてやってますね。最初は、哲学者で株式会社ゲンロン社長でもある東浩紀さんの『ゲンロン0 観光客の哲学』という本を読むことから始めました。

——どんな本なんですか?

汐月: 簡単に言うと、例えば「『チェルノブイリ』って聞いて思い浮かぶイメージと、現実はかなり違うから、実際に見に行ってみようぜ」ってことでしょうか。「他者を大切にしよう」とか言うと、いわゆる“意識の高い人”しかついてきてくれないので、じゃあ「観光しようぜ!」みたいに言った方がまだ伝わるんじゃないか、ということを提案している本なんです。私は、いろんな社会的課題や“当事者”の視点についても、そういうアプローチができるんじゃないかと思っているんです。

——へー! 面白そうですね。

汐月: はい。陸奥さんのまちあるきとも問題意識の根っこが一緒だなと思って。陸奥さんに『ゲンロン0』を読んでほしいという気持ちと、今より多くの人が、そういう、ある種のカジュアルな向き合い方を知ったらけっこう役に立つんじゃないかなという思いで始めました。

ほかにも、「観光読書会」というタイトルには「普段は人文書なんか読まないような人も、知らない国へ行くようなテンションで読める」っていう意味を持たせていたり、いざ読書会に参加してみたら、違うコードというか、その人なりの解釈を語り出す同席者を見て「なんだこの人……?」とギャップを感じることもあり得るよ、って意図を込めたりしています(笑)。「予期せぬ出会い」とか言っちゃうとキラキラし過ぎてて嫌なんですけど、まぁ、大きな意味での「旅に出る」ってことですよね。

現状維持と改革は二項対立ではない

——最後に、ここここインタビューでのお決まりの質問になるのですが、この図で言うと、汐月さんはどのあたりにいらっしゃると思いますか?

汐月: んー。今は大阪なのでまだ良いんですが、東京にいると、どんどん自動的に上に上げられてしまうので……。

——ここここ編集部内でも、「上や左に向かうエスカレーター」があるよねって話をよくしているんですよ(笑)。

汐月: そうそう! ありますよね、やっぱりね。だから、なるべく下に寄せたいなって思いがあって。私にとっては、関西に引っ越してくることもその「下に寄せる」ための足掻きのひとつだったと思うんですけど、両親は東京にいるのでいつかは戻らないとなーと思ってるんです。だから、故郷である東京といかに共存しながら下に行くか、は今後の自分の課題ですね。

——なるほど。左右は、どうですか?

汐月: これはもう、ガチで右ですねー(笑)。

——ガチで(笑)。 どういうところがですか?

汐月: 現状を何もいいと思ってないですからね……(笑)。

——何もよくない。(笑)

汐月: ちょっと真面目な答えを返すと、右(改革)のことを考えてないと、いい左(現状維持)ってできないと思うんですよ。さっき(編集部注:前編)PTSDの発症経験の話をさせていただきましたけれども、PTSD治療の第一人者である中井久夫さんは、免疫学で博士号を取っていらっしゃるんですね。免疫学って、「恒常性」、例えば人間の身体に異物が入ってきたときに、身体のシステムはどういう反応をして「いつも通り」の状態に戻るかっていうようなことを扱う学問なんですけど、私は子どもの頃に彼の著作から大きな影響を受けているので、「改革していかないと現状維持はできない」という考え方はそこから来ているかもしれません。

——根底にあるんですね。

汐月: 極端に言うと、改革と現状維持が二項対立だと思ってないです。

——おおっ……! その表現はわかりやすいです。

汐月: とどまってない、みたいなイメージかな。左右の両方に向かっていくことで真の改革があると思います。

スマホの画面をピンチアウトするように、右下の真ん中の右寄りからピンチして左右の両方向に広げる動きを見せてくれた汐月さん。彼女の魅力に触れたい方は、ぜひ「ゲニウス・ロキ探偵社」のツアーや「観光読書会」へ!

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汐月さん、ありがとうございました!

(ライター:徳田なちこ  取材日:2018年4月16日)

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