2020.01.23

Interview

ここここ|入谷佐知さんインタビュー(後編)

認定NPO法人D×P(ディーピー)で広報・ファンドレイザーを務める入谷佐知さん。前半(このブログ)では主にNPOの経営について伺った。後半では、実は「右上タイプ」だという入谷さんの働き方についてもお聞きした。

※この記事は武田緑さんとの公開対談をインタビューとして再構成しています。

#団体運営 #不登校 #生きづらさ #教育 #支援とは #高校生 #NPO #戦士 #右上

一緒に生きたい、あきらめない

ー今回入谷さんにお話を聞きたいと思ったのは、このブログ記事(リンク https://lineblog.me/sachiiritani/archives/828797.html?fbclid=IwAR2mD10E9ZXtbZCzBnIRpdb7148hQmPESSs1dZ0q62Bz6S2mo8w-xVE5Rw8)を読んだことが大きいんです。チームが壮大なビジョンを持つと、実現のためにメンバーが無理をしてしまうことがある、でも、無理のない範囲で小さくやるだけでは届かない人がいるから、どちらも両立して目指したいというお話だと読み取りました。そこが、共生志向でありながら改革を目指すという「右下っぽさ」だなと感じたんです。入谷さん自身は「ここここの図」でいうとどのあたりにいると思いますか。

入谷: 私は……残念ながら、基本右上の人なんですよ。競争というかイノベータータイプ、「24時間働けますか」みたいな人間です。多分、D×Pの人たちからは「戦士」みたいに見えてるんじゃないですかね。


―戦士! たしかに「右下っぽさ」のイメージからは離れた感じがしますね。

入谷: 私は、自分をある種マジョリティだと思っているんです。世間からマイノリティと言われるような人の背景や生きづらさを抱える人のことを、自分は理解できないほうだと、ある意味自覚的に思っていて。ただ、私はシンプルに、その一人一人に興味があるんですよ。

例えば、クラスで突然不登校になった子がいたら「何があったんだろう」と思う。実際に家まで聞きに行ったこともあるんです、教室に連れていくとかではなく。自分とは違う価値観や生き方の人たちに興味がある。私自身は「戦士」なんですけど、でも、生きづらさを抱えている人たちの話を聞きたい、一緒に生きたい、という気持ちがあります。

―そういう意味では、とても共生志向ですね。

入谷: ただ、やっぱり戦士なので(笑)、めちゃくちゃ働くし、ずんずんずんずん先に進んでいくので、その姿を見てしんどくなる子とかもやっぱりいるんですよね。「あんたが頑張ってるだけでつらい」って言われたことも何度もあります。

―それって言われたほうもつらいですよね。

入谷: グサーって刺されますね。でも、やっぱりしんどいって言ってくれたこと自体がすごいことだと思う。それで私はどうなるかっていうと、次の日からの行動が変わるわけではない。刺されっぱなしで「私は今日も行きます」ズンズンズンズン!みたいな。

―さすが戦士。

入谷: なぜなら、私の足を止めることを、その人が長期的には望んでいないと思っているから。わざわざ伝えてくれたのは、それでも何か一緒にやりたいとか可能性を感じてくださってるということだと思います。しんどいっていう感情もすごく大事なものだから、私は受けとめるよって。それこそ何年も聞き続けます。少なくとも、私からは絶対に関わることをあきらめません。

たくさん働ける人がたくさん働けばいい?

―冒頭のブログの話に戻りますが、壮大なビジョンを実現することと、無理せずやることを両立させようと考えたとき。例えば「たくさん働いてもしんどくならない人」や「少し働いただけでたくさん成果が出せる人」のチームならば、実現できるという考え方があると思います。いわゆる「タフで生産性の高い人」ということですが。でも、生産性の高い人しかチームに参加できない、そういう人しか働けないというのは、社会起業マインドやNPOのビジョンともかけ離れていると思います。D×Pでは、このジレンマをどう乗り越えているのでしょうか。

入谷: うーん、たしかに悩ましいですね。特にD×Pは寄付でいただいてるお金なので、それを効率的に使うのは当たり前のことでもある。いただいたお金以上のインパクトを出したいというのはやっぱりありますからね。そのお金が人件費にも充てられるのであればなおさら。でも生産性で人を判断しているわけではないし……うーん。

―D×Pではインターンシップ生の受け入れもしているんですよね。生産性だけでなく、いろんな人と一緒に仕事をする中で、悩むことはありませんか。

入谷: 今は、1年前にすごくいい職員が3人も増えたんです。その3人はすごくいい感じで働いてくれていて。ただ、昨年の3月ごろまでは人手が足りない時期もありました。

そこでどうしたか。例えば、必要な業務に対して人手が足りないとなったときに、「じゃ、その分、私が休まず働きまーす!」って、全部自分でカバーするって決めたんですよ。今から思えばすごく無理があったんですけど、もう、する! って決めて。

―えっ、すごいマッチョな解決策……しかもお子さんもいるんですよね。

入谷: はい。今8歳の子供がいるんですけど、子育てしながら。そういう生活を4年くらい続けていて、やっぱり身体に出ました。昨年の3月に胃潰瘍になって。そんなに働いてたら当然ですよね。でも私はそのとき「もっとみんな働いてよ!」「無理してよ!」って言う気になれなかったんです。大事な仲間だから。それなら戦士の能力をこっちで発揮したい、みたいな。

でも、身体を壊して、これはまずいなと思って、いろいろ考えました。ほかの人にも相談をして、少しずつ仕事を減らしていこうと。そのとき、現在の職員のうち2人が当時インターンとして働いてくれてたんですけど、2人を信用して、ちょっとずつ自分の弱いところを出していったんです。今これ困ってるとか、これ辛いとか。泣いちゃったこともありました。で、なんと7月から1か月の夏休みをとることができたんです。

5月くらいから休む準備をして、6月に3人が職員として入ってくれたんですが、とにかくその時点で自分の持ってるタスクをばばばーっと書き出したら、案件ベースで78件ありました。それを、一件一件全部、担当者を別の人に割り振って割り振って……。

で、9月くらいに職場に帰ってきたら、何だかみんなと話がしやすくなってるんですよ。私が持ってた仕事を受け取ってくれたことで、何というか視座が上がったというか、一緒に働く仲間としてすごく安心感が増していて。

―それはすごいですね。

入谷: 自分の仕事を手放したら受け取ってくれる人がいて、働くスピードはそれぞれですけど、もうちょっとやろう! ってアグレッシブに思ってくれた人がいたんだなって。1人で仕事を抱えてた4年間は、しょうがなかった部分もあるんですけど、私が閉ざしてたものもたくさんあったんだなという気はします。最初の問いの答えになってるか、わからないんですけど。

―いえいえ。最初に「みんなもっと働いてよ!」と言わないでいられたというのが、入谷さんの心の体力みたいなものを感じます。新しい職員さんが入って、今は少し肩の荷がおりたのではないでしょうか。

入谷: そうですね。あと、職員の中に私と同じくらい戦士な働き方をする子が1人いるんですけど、「自分はマッチョな考え方だから、それをインターン生に押しつけてしまうんじゃないか」と言ってて面白いなと思いました。そういう悩みを持つことがすごく大事なことだし、じゃあ押しつけないためにどうしたらいいかって考えることができるので。

専門家でない人も誰かの支えになれる

―最後に、最近のD×Pの活動について教えてください。

入谷: これまで、定時制高校や通信制高校を通じて、若者たちと直接会って対話するようなプログラムを実施してきたんですが、去年から、LINE@やディスコードというコミュニティアプリを使った新しい取り組みを始めています。LINE@では進路相談をオンラインで行って、ディスコードでは雑談スペースのようなオンラインコミュニティをつくっています。

―面白そうですね! SNS使いは入谷さんの得意技ではないですか。

入谷: まさに、前半でお話しした経験が発想の元になっています。実際に会うプログラムでは、コンポーザーという、一般の大学生や大人に会話のボランティアに来てもらうんですけど、オンラインコンポーザーがいたらいいなと思って。

例えば、バイクめっちゃ好きな人がバイクのことをつぶやいたり、写真をインスタみたいに投稿してる中で、ハッシュタグに #不登校さん集まれ みたいなのをちょこっと混ぜて、自分の過去の体験を語ったりするという。つまり、専門家じゃない普通の人にもできることがもっとあるんじゃないかと思うんです。普通にSNSで交流してた相手が、なんかしんどそうだな、この子大丈夫かなと心配になるときがある。そんなときに「どうしたの?」から「D×P知ってる?」って声をかけてもらえたらすごいことだし、オンライン上にセーフティーネットが1つふえるイメージがあります。

ゆくゆくはD×Pのオンラインプログラムにつなげられないかとか、いろいろ議論の途中なので、まだまだこういうことやりますって明確には言えないんですけど。

―入谷さんの戦士パワーの発揮がこれからも楽しみですね。

入谷: 私も常に悩みながら、ジレンマの中でやってますけどね。自分は右上、戦士タイプだけど、生きづらい人や違う価値観の人とも一緒に生きていきたい、それをD×Pで実現していきたいというふうに思っています。

 

―入谷さん、ありがとうございました。

ライター:宮崎絵里子(取材日時:2019年8月22日)

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