2017.12.22

Interview

NPO法人「こえとことばとこころの部屋」(ココルーム)代表の上田假奈代さん。記事後半では、「社会実験」の結果や假奈代さんの右下度などにせまります。

社会実験は失敗だった。

假奈代: 「表現を仕事にする社会実験」(詳しくは前半)については、私は「失敗した」って2年前に宣言したんですよ。

——失敗というのは、仕事として不十分な状態にしかならなかったという意味ですか?

假奈代: そうですね。スタッフの何人かは、育ってくれたなと思う人もいるけども、結果的に運営の状況は上向いてない。「社会実験」として始めたけれど、10年やってお給料変わらないんですよね。そのことがやっぱりきつくて、やめる人もいるし。やってきたことを知って「それは失敗じゃないんじゃない?」って言ってくれた人もいるけど、「失敗」って言わないと次の段階に行けないから、私は言い張るんです。

——その「失敗」を持って向かう先というのは・・・?

假奈代: 抑圧とか、貧困とか、チャンスに恵まれないとかで、表現ってものからすごく遠ざけられた状況にあった人たちが、自分の心の在りどころを感じながら、やっと自分の気持ちを言えたり表せたりする時の、表現の持つ力がめっちゃおもしろいというところまでは、もう確信を持ったので、そういう状況にある人と活動するのは、今後も変わらないですね。これを仕事にするのは、もっと工夫が要りますね。

——それは、釜ヶ崎以外にも活動の場を広げていくようなイメージですか?

假奈代: 釜ヶ崎は、おじさんたちがどんどんお年寄りになって、あと5年くらいでまちもずいぶん変わっていくと思います。宿や安い家が空いて、旅人が増え、そういう人たちのためのお店ができ、おそらく5年で、いわゆる釜ヶ崎はなくなっちゃう可能性が高いんですね。その時に、うちはどうするかって言ったら、おじさんたちの存在や釜ヶ崎ってまちの歴史をなかったことにされないようにしたい。アーカイブとかも大事だけど、できたら、土地の記憶や生きた証しが、何かの形で表現されていくといいなと思います。誰かと誰かが出会って、人生の中に影響を及ぼし合ったり、それぞれ種を受け取って生きていくというのがいいなぁと思うんですね。

——確かに。資料や文献を残すことも大切だけれど、それだけでは残せないものの受け継ぎ方を考える必要があるんですね。

假奈代: 記憶と、表現。ココルームは、おじさんたちと出会って、おじさんたちにいろんな表現をしてもらって、それを誰かが立会い、見る、みたいなことも一生懸命してきたんですけど、それほど悠長にやってられない気がしてきたんです。荒っぽいけど、直接的に出会ってもらうってことが必要なんちゃうかと思って。ゲストハウスの展開はまさにそういうことで、おじさんたちと旅人の出会いを必然的につくることにしちゃった。いいこともあれば、衝突もあるかもしれないけれど、5年くらいコツコツやっていったら、次の展開が、肌感覚で見出せると思っています。

2016年4月にオープンした「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」の入口。アーティスティック。

入口には、たくさんのチラシやフライヤーが置いてある。

弱さを開く

——表現を仕事にするということと、釜ヶ崎のおじさんたちのような、今まで表現できなかった人たちがそれをできた時におもしろいという話と、その2つはどうつながっていますか。

假奈代: 循環なんです。おじさんたちが表現してくれたものにグッとくるんだけど、それは私たちの働く場の中でも、同じように起こる。ダイナミックに絡まっています。困ったことに、おじさんたちは表現できるようになったのに、スタッフは表現しなくなる、みたいな時もありました。信頼関係が崩れるということは、表現ができなくなるということなんですよね。そんなことも、これまでに何度もありました。

——絡み合っていて…ということは、上手く噛み合って好循環になるようなことも起こってきましたか?

假奈代: もちろん、もちろん。それは、「弱さを開く」ってことが大きいんです。弱さを開けないからだいたい硬直するんです。スタッフも、おじさんたちも、もちろん私自身も。

——「弱さを開く」って言葉、いいですね。

「行ったり来たり」「どこでも行ける」

——感覚的でいいんですが、假奈代さんは、ご自身の立ち位置は、ここここの図のどのあたりだと思いますか?

假奈代: ここ!(ど真ん中)

迷わずど真ん中を指差した假奈代さん。

——ど真ん中なんですね。その心は?

假奈代: 「どこでも行ける」みたいな感じ。社会実験に失敗したということの中でも、お金をどう捉えるのかというのは、未だに自分の中で冷たい感覚が走る問題で、「右下なんです」って言うだけでは済まない現実があると思っているんです。

——右下、つまり改革志向で共生志向ということになると、ともすれば「脱貨幣経済」みたいな話になってしまうところがありますよね。それでは済まない、という感じでしょうか。

假奈代: そこも含めて、きわきわのラインだけど、言葉を見つけるとか、「それでもなお・・・」の感覚を見出せたらおもしろいなって思います。私はたぶん「右下」って言葉よりも、「行ったり来たり」って言いますね。いつもは釜ヶ崎のお金のない人としゃべってるけど、たまにたくさんお金持ってる人ともしゃべってみたり。それってすごい疲れるし、自分が何を着て、何を食べ、何にお金を使うのかを問われるから、すごいしんどい。でも、それを行き来することにきっと意味があると思っています。

——行き来することというのは、假奈代さんにとってどんな意味があるんでしょうか?

假奈代: 実際動いて、会う・話す・感じるとかの具体的な行動に身をおく、体がそこにある、っていう感覚かな。体が動くってことは、入ってくる刺激も変わるし、感じることも変わらざるを得ないし、問われる、ということ。「想像」の世界ではなく、実際行って見て感じて、「わ~~!」ってわけわからへんくなったり(笑)、「つらい!」とか「だからどうなん?」とかね。「体をそこに置く=自分の地肉にする」ことで、やっと自分の中でしっかり感覚が定着するから、自分を変えていく勇気になるんですよね。

——行き来する中でも、軸足みたいなものは、ありますか?


假奈代: 軸足と言うなら、「いのち」。あとは、スピリチュアルな言葉になってしまうけど、「霊的精神」とか、宇宙的な感覚っていうのが究極のところですね。気持ちがとっ散らかることがあったとしても、呼吸を深くして、そこに戻るようにして、いつも、なんとか生きてるんです。とめどなく流れている「いのち」の、その流れの中にいる・・・心がけていることは、本当にそれだけなんです。

ココルームの、気持ちのよい見事な庭の真ん中には、「釜ヶ崎芸術大学」講師でもある現代芸術家の森村泰昌さんが植樹したフランスいちじくの木がある。ハンモックもあり、くつろげる。

テラス席には「釜大明神」が。お賽銭ではなく、カンパをするとおみくじが引ける。短い詩のような、中吉でした。

——お話を伺っていると、誰かのためにやってるわけでもないし、何か目的があったり、逆算してるんじゃなくて、積み上げる中で進むべき方向に進んできた、みたいなイメージなんですね。

假奈代: そうです、そうなんです。もう「勝手にやってますから!」みたいな感じなので、全然正しくないかもしれない。「頼まれてやってるわけじゃないし!」って思ってるんです、いつも(笑)。だから、不安でもあります。
私は、詩人なんだけど、人にしゃべるのが苦手で、幼い時からけっこう苦労して、だから書いてたんですよね、文章を。言えなくて、まとまらなくて。その生きづらさがあって、そうやって自分の中のまとまらない感覚をよく観察しないことにはどないもこないもならへん、っていう人生だったので、日常で何かひっかかることを、すごく見て、そして考えるという癖を自分の中でつけたんだと思います。だから、自分の心の動きを観察するということは、すごく大事なんだと思う。それを見て、「ここ直さなあかん」とかでもなくて、「ちゃんと見る」ってだけで、いいと思っています。

——假奈代さん、ありがとうございました!

インタビュアー:徳田なちこ(取材日:2017年10月10日)

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