2019.03.08

Interview

さがひろかさん(前編後編)がバトンを渡したのは、「こどもみらい探求社」共同代表の小竹(こたけ)めぐみさん。
保育士起業家として、
「家族」や「子ども」に関連する人材の育成、マーケティング、コミュニティづくり、イベント企画運営、空間デザインなどなど、その事業は多岐に渡る。

世界中を旅した20代、そして保育士として子どもと関わってきた経験から「人は、一人ひとり違うからこそ素晴らしい」という信念にたどり着いた小竹さん。

企業や自治体とのコラボレーションを軸に、「子ども達にとって本当にいい未来」を探求し、「違いを活かし合う社会」の実現に向けて、社会にアプローチしている。

前編では、活動を始めたきっかけや、事業を行う上で大切にしていることなどについて伺います。

環境がよくなれば、子どもはより良く自ら育つ

——まずは、小竹さんがどんなお仕事や活動をされているのかを伺いたいです。それを始めたきっかけも、ぜひ一緒に教えてください。

小竹: では、シンプルに話しますので、気になったところを質問してくださいね。

——はい。よろしくお願いします。

小竹: 「こどもみらい探求社」という会社を経営しています。本当にしたいことだけを凝縮してやっているので、「仕事」という言葉にやや違和感がありますが、聞かれたら「仕事」と答えています。

——へ〜! それは何ともうらやましいです。

小竹: いろんなジャンルの方々と一緒に、「家族」や「子ども」の環境をより良くすることがメインで、「コラボレーション事業」と呼んでいます。

もともと「家族」や「子ども」にとても興味があり、保育士として家族や子どもにダイレクトに関わっていました。しかし思うところがあり、現場の保育士としてではない形で子どもや家族がより良く生きられるようになるために何かしたいと思い、あえて現場を離れ……たように見せかけて、

——見せかけて(笑)。

小竹: はい(笑)。実は離れたわけではなく、子どもや家族を取り巻く「環境」を良くするために、いろんな人と手をつなぐというのがお仕事ですね。

——「お客さん」は、誰になるんでしょうか? 

小竹: 「お客さん」という言葉で、そもそも考えないんですけどね。一緒にお仕事をしてくださるのは、企業の方々です。時として、行政の方ともさせていただきます。

ほかにあまり例をみないような仕事内容なので、「既にある言葉で言うと?」と聞かれると、なかなか難しくて。人に説明すると、「それって、こういうこと?」って、その人の中の言葉で解釈してもらっています。「家族」や「子ども」に関わるいろんなことを、コラボレーションしながら形にしています。

こどもみらい探求社のWEBサイトhttps://kodomo-mirai-tankyu.com/
ビジョンや事業内容はもちろんのこと、メディア掲載情報もチェックできる。

10回シリーズの習い事として通う連続型の親子向けプログラム「おやこ保育園」の様子。

——保育の現場を離れたのは、保育士のお仕事だけでは限界があると思ったからなんでしょうか?

小竹: 保育士だけでは……というネガティブな風には思ってなくて、保育士として現場で「子どもとダイレクトに」関わるのではなくて、「それ以外のアプローチ」を探してみたいなぁって思ったからかな。現場で働いていた時には「直接いろいろしてあげたい」と思っていましたが、なんというか……「子どもは自ら育つ」というのが、もう自分の中での結論でした。環境が良くなれば、より良く自ら育つんです。

農業とも近いですね。良い環境さえ用意すれば、みんな自分の力を持ってるからすくすく育つよな〜って。そんな思いから、「環境を作る」という方に行きました。

——なるほど。それは納得です。

小竹: それがひとつ。

あと、私が……時間でもルールでも、窮屈なことがすごく苦手で、集中力も低いので、一般的な「○時間働かなきゃいけない」というところに、つらさを感じてまして。ポジティブに言うと「自分の時間は全部、自分で積極的に選んで使いたい」と思いました。

その2つの理由が合わさり、現場から飛び出して、今の会社を創りました。

——右下っぽい人には、そういう自由人的な方が多いイメージですよね。組織に属さずに身を立てることに不安はなかったですか?

小竹: 人生の目的みたいなものを設定していないので、「こうしなきゃ人生失敗だ!」とか思わなくて。暮らしでも仕事でも、「誰と一緒にやるか」とか「誰と長い時間一緒にいるか」が自分の中ですごく重要なんです。一緒に会社を創ったビジネスパートナーの小笠原舞ちゃん、彼女と一緒にやることができたら、もう不安はないなと思いました。

——へ〜!

小竹: それぐらい、すっごくフィットしたので。その気持ちは今でも同じです。

“相方”である小笠原舞さんと。

“歩く道”をお手伝いさせてもらう

——こどもみらい探求社で、最近やった具体的なお仕事とか、よく取り組む事業などがあれば聞きたいです。

小竹: 時期によって、事業内容が違うのがうちの会社の面白いところです。最近は、企業の方々が想いを持ってつくる“企業主導型”の保育園さんのお手伝いが、多くなりました。

——へ〜! そうなんですね。言われてみれば、私も友人に企業のつくった保育園で働いている保育士がいます。

小竹: 保育の専門家ではないけれども、想いがあって「こんな保育園を形にしたいんだ!」という場合に、立ち上げをふくめて軌道に乗るまでのサポートをさせていただいたり、「つくりたい園のイメージはあるけれども具体的ではない」という時には、一緒に具現化させてもらったり。オリジナルカリキュラムを提供させてもらうこともあれば、アドバイザーとして入ることも。“オリジナルの歩く道”に伴走させていただくことが、最近は多いですね。

——なるほど。

小竹: あとは「数年後にこういう場所ができるけれど、どうしたら、たくさんの家族に来てもらえる?」というような、仕掛けづくりのサポートも多いですね。お相手は、建築会社の方の場合もあれば、土地を持っている事業者さんということもあります。

建築会社(まちづくり)×こどもみらい探求社。
渋谷の街をこどもの目線とペースで歩く、まちあるき企画。
建築会社の方々はこどもを観察し、メモをとり、まちづくりに視点を生かす。

小竹: それから、小・中学生向けのイベントも。自分たちで仕事を生み運営し、リアルなまちづくり体験ができるというもの。大人は手や口を出さず、子どもが自分たちの心と頭と体を使ってチャレンジをします。たくさんの学びを持って帰ってもらえるイベントで、大阪のグランフロントで始まり、昨年はDBJ(日本政策投資銀行)の皆様と。今年は、北海道でSAPPOROの方々と、一緒にやらせていただきます。最新のICTシステムを導入しながらも、アナログな部分も大事にする……まさに、未来の町です。

——へ~、楽しそうですね!

東京で行われた体験型イベント「ミニフューチャーシティ」の様子。

小竹: 仕事内容をお話ししていて、改めて面白いな、と思うのは、2013年に今の会社を始めてから、しばらくは教育業界・保育業界からかけ離れた仕事が多くて。そこを楽しんでいたんですけど……

——それは、意外です。もともと保育の現場で働いていらっしゃったわけですし。

小竹: うん、そうですね。やっぱり本を出版したことで、教育や保育の業界の方とのコラボレーションが一気に増えるきっかけになりました。ほんとに自然にそうなっていきました。

こどもみらい探求社の本(小竹さんと小笠原さんの共著)は、現在2冊刊行中。
2016年12月に新潮社から、『いい親よりも大切なこと~子どものために“しなくていいこと”こんなにあった!~』が、2017年1月には、小学館集英社プロダクションから、写真集『70センチの目線』が出版された。

『いい親よりも大切なこと』は、2017年6月からは、電子書籍版(kindle版)も配信され、さらに2018年9月には、韓国で翻訳・出版された。韓国語版のタイトルは『 引き算育児 〜完璧でなくても大丈夫です!〜 』。

「疲れた」とか「大変」って アウトドアに近い

——ご結婚されていて、お子さんもいらっしゃるとのことですが、不自由な部分はありますか?

小竹: 不自由だらけですよね、生きてることって。

——(笑)! たしかに。

小竹: あー……「不自由」っていう言葉はそんなにフィットしないですけど、「葛藤」とか「難しさ」は「こんな風にあるんだなぁ」と思いながら、喜怒哀楽しながら、常に自分を観察してますね。

——ほ〜! それはカッコいいですね。

小竹: 「私、今子どもに振り回されてるな〜」とか、「私、今いっぱいいっぱいだわ」とか。一言で「大変です!」ではなくて。「疲れたなー」とは、よく思いますけど。子どもと暮らすのは、アウトドアに近いかなと思いますね。嫌だから「疲れた」「大変」って言っているわけではなくて、プロセスそのものを味わうことが尊いなーって。

——なるほど。

この日は、こたつで温まりながらインタビューさせていただきました。

「思う」「考える」というよりは、「感じる」

——どうして「家族」や「子ども」に対して、ダイレクトではない方向から環境づくりをしていこうと思ったのか、その根っこにある思いやモチベーションなどがあれば教えてください。

小竹: なんだろうな〜。正直もう覚えてないので……。

——え! そうなんですか!?

小竹: そうそう!(笑)そもそも「思ってない」っていうのが、今の質問の答えなんですよね。

——すごく興味深いです、それ! 小竹さんの性格がとても伝わってくる答えですね。

小竹: 「思う」ということって「考える」に近くて、頭を使いますよね。私、あまり頭を使いたくないタイプなんです。頭ばかり使っているとどうしても狭くなってしまったり、自分の中だけでグルグルしたりしますよね。

——そうですね。私は頭を使うタイプなので、それはとてもよくわかります。

小竹: 私たちがお仕事でやらせていただくことには、必ずお相手がいますし。社会や世の中を眺めながら、仕事を生み出しています。なので……自分の頭の中だけで考えないようにしています。

——ほー。

小竹: 「思う」「考える」より、「感じる」こと。なんというか……「わかったこと」しかやってないんです。

——「わかったことしかやってない」というのは? もう少し詳しくお願いします。

小竹: 出来事には「流れ」があると思っています。その中で、「あ、こうやるといいな」という、自分の中で見えてきたことをやるだけなので、「思ったり」「考えたり」ということは、そんなに多くはないです。頭というより、もっと違う、頭以外の部分……が、たぶん活躍してます。

——へ〜! すごく新鮮です。

こどもみらい探求社のFacebookページ写真も豊富で、イベント実施時の雰囲気がよく伝わってくる。 https://www.facebook.com/kodomomiraitankyu/

小竹: インタビューを受けるのも、前のめりではないのは……頭に“クる”じゃないですか。

——そうですね(笑)。確かに、インタビューって、質問に対して、頭で考えながら答えていくお仕事になりますよね。

小竹: 普段から、パッパッパッって判断したり、さっき言ったように「わかってること」を仕事として行動にうつし、形にするので。自分たちのやっているお仕事は、「考える」云々ではないですね。それが、「わかったことしかやってない」の説明ですかね。

役割は「ゼロをイチにする」

——ビジネスパートナーの小笠原舞さんとの役割分担はあるんですか?

小竹: すっごくあります。もう本当に、全く違う役割ですね。ひとことで言うと、私が「ゼロ・イチ」の役割。いろんな意味で、です。生み出すこともそうだし、「場」をつくることも。そして彼女は「過去と未来」を担当してくれます。これまでやったことの整理はもちろん、これからやることの準備なども。

——すごいバランスですね。

小竹: そうなんですよ。私の方が、こう……パッ!パッ!みたいな(笑)。彼女のほうは、じっくりと、しっかりと!

しかし、2人で会社をやっているので、お互いが動けなくなったときのために、役割を代われるようにはしていますが、心地いい分担をするって大切なことなので。より意気込まずにできることを、各役割にしています。

——素晴らしいコンビなんですね。今まで、個人で活動していたことはあるんですか?

小竹: あります、あります。「フリーランス保育士」という肩書きを使っていましたね。ちょうどTED TALKをした時が、その時期でした。個人事業主で2年間くらいやってたかな?


TED×Fukuokaのステージに立った時の小竹さん。
動画はYoutubeで
今も観ることができるので、ぜひ。

——個人で活動していた時は、今より窮屈でしたか?

小竹: 覚えてないんですよねぇ。どうだったっけな?って感じです。でも、きっといろいろ感じて思うことがあったから、方向を変えたんでしょうね。

常に「今」がいいなぁと思っていて、選択し尽くした結果が「今」っていう状況だから……。

——お話を聴きながら、今とても良いエネルギーをもらってる気がします! さっきも言いましたが、私は頭で考えすぎてしまうタイプなので。

小竹: でも、ポイントは、私が話したことを聴いてくださった方が、私が話したことに納得をし切らないでほしいんです。小竹めぐみという人間だから、こういう風にしたというだけなので……どれくらい、私ではない人の参考になるか……。よく、私の話の最後には「……っていう人もいます。」という言葉が付きます(笑)。

私たちが出版した本も、そういう内容の本なんです。「みんな、こんなに違うよ」というのを前提にして、一人ひとりが物事を考えられるといいな、と願っています。

——そうですよね。一人ひとり、違う人ですもんね。

小竹: はい。「私の場合は、そうやってやってるけれどもね」みたいな感じなんですよね。

明るくさばさばとしていながらも、ひとつひとつの言葉や言い回しを大切に選びながら話す姿がとても印象的だった小竹さん。

後編では、世界を旅していた時のお話や、右下のどのあたりかなどを伺います!

後編へつづく

インタビュアー:徳田なちこ、藤田ツキト(取材日:2019年1月4日)

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