2018.03.09

Interview

釜中悠至さん(前半後半)が次にバトンを渡したのは、笹尾和宏さん。笹尾さんは81年生まれ。不況により新卒採用が抑えられ非正規雇用で働かざるを得なかった人が多いロストジェネレーション(ロスジェネ)世代と重なる。大学で都市計画を学び、現在は大手ゼネコンに勤めるサラリーマン。一見右下とは無縁の「勝ち組」に思えるが、プライベートではいち市民の立場で大阪のまちなか空間を使い楽しむ「水辺のまち再生プロジェクト」メンバーの一員でもある。
釜中さんからは「安定・現状維持志向をもつ左上的組織に属しながら、右下的な活動もしている。それをどう語るのか聞いてみたい」というリクエスト。笹尾さんはどう答えるのだろうか。

一人まちあるきにはまった学生時代

——学生時代は何をされていたんですか?

笹尾: 都市計画を勉強していました。元々は環境保護に興味があって。高校の時も一人で教室のゴミの分別をして、リサイクルゴミ箱のあるスーパーまで捨てにいっていたくらいで、「環境保護をやるぞ」と燃えていたんです。大学は大阪大学の地球総合工学科に入りました。そこは大きく自然環境と都市環境という分野に研究室が分かれていて、僕は都市環境系の研究室に入りました。

——へえ~。どうしてずっとやりたかった自然環境ではなく、都市環境を選んだんですか?

笹尾: カリキュラム上、大学3回生後半になると受けないといけない講義がほとんどなくなって暇になったんですよ。でもお金はなくて…。その時にまちあるきにはまって、一人で定期券のエリア内で途中下車して、ちょっと歩いてまた別の駅から乗るというような遊びをしていたんです。知らなかったところを歩いたらこんなに面白いんやと。そういう、みんなの知らないまちの面白いことや、魅力を教えたい、知らせたいと思ったのが動機ですね。

都市を使って自由に遊ぶ「アーバンアウトドア」

——どうして「水辺のまち再生プロジェクト」に関わるようになったんですか?

笹尾: 「水辺のまち再生プロジェクト」自体は2003年に発足したんですが、僕は後からメンバーになりました。ちょうど大阪を「水都」として盛り上げていこうと言われ始めた時期です。まだそんなに川に注目されていない頃に、川沿いの公園や、橋の上って気持ちの良い場所だよ、イケてる場所だよ、ということを知ってもらおうとする団体でした。社会貢献としての立ち位置から入るのではなく、自分たちがイケてると思う場所でそういうシーンを実現するスタンスが面白いな、と思って入ったんです。

——就職したのも同時期くらいですか?

笹尾: はい。都市とか、建築に関わりたいならそれをど真ん中でやっている会社がいいと先生から聞いて、大手ゼネコンを選びました。

——「水辺のまち再生プロジェクト」では「NO BORDER, BE WILD」を合言葉に「アーバンアウトドア」という考え方で活動しているそうですね。

ゴムボートでボタリング
大阪の川で自分のゴムボートを浮かべて遊ぶのに、許可はいらない。ただし、公共の船着き場を使う場合は利用料が必要。

水辺ダイナー
通行の邪魔にならない屋外に椅子や机を持ち出して、ディナーパーティー。夜景を見ながら食べるといつもの食事も違う味がする。

笹尾: 最初は水辺の魅力に気がついてない人に対して、自分たちが実践して示して気づく人が伝播していくことによって、水都大阪を盛り上げようという気持ちがありました。でも、行政や財界に加えて、どんどんまちづくり・地域活性化の第一線に居る人や事業者が関わるようになってきた。2008年頃から水辺環境整備され、多くの観光船も行き交うようになり、「水都大阪」のひとつの姿が実現したのであれば、解散してもいいのかもしれないと思うようとなりました。

——でも、それで一区切りというわけにはならなかったんですね。

笹尾: そうですね。イベントに参加したり観光船に乗って遊ぶという楽しみ方は定着してきている実感はあります。サービスが提供されて、お金を払って楽しむみたいな。でも、それってサービスの供給側が手を止めたら一気に尻窄みになるのかな? いち生活者の文化として、ライフスタイルとして充分に育っているのかな? と言う気がしたんです。

自分たちの一人ひとりの生活の中に川や水辺が根付いて、結果的に自分たちの暮らしが楽しくなるということに対する取り組み余地は残っているのかもしれない。そう思ったら僕たちの活動に、そういった大きな水都大阪に対するオルタナティブ的な、アウトサイダー的な存在価値が、まだあるかもしれないね、となったんです。そこからまず「アーバンアウトドア」という考え方が出てきたわけです。

「水辺のまち再生プロジェクト」で作った『アーバンアウトドアのレシピ』。都市の中で自然を楽しむための提案が実例として紹介されている。

——川にゴムボートを浮かべて乗ったり、公園でヨガをしたり、ランチピクニックをしたり発想が自由ですよね。

笹尾: 例えば、「ボートに乗ろう」となったら、すぐにお金を払ってチケット買って観光船に乗っちゃうし、「川の見える景色のいいところでご飯を食べよう」となったら、すぐにカフェに行っちゃう。当然、そういうサービスを利用しないと得られない魅力は大いにある。でも、システムや制度に乗っかるのが当たり前になると、その先がない。思考停止になってしまう。

自分でできることも選択肢として挙げて、自分なりに解釈してやっていくことも大事じゃないか? という感じで「アーバンアウトドア」という考え方で都市空間で遊ぶ、好きなことや勝手なことをやる、ということに自分たちの興味が寄っていきました。

「都市の隙間を使う」同時代的な流れの中で

「アーバンアウトドアのレシピ」が提唱するのは、都市で好き勝手にふるまうということではない。いかに法律の隙間を見つけ、都市で自由にふるまう余地を見つけるかだ。

アーバンアウトドアをより楽しむためのグッズも紹介されている。

——2009年頃からこのような活動をしだしたということですが、時代的な影響もありますか?例えば、坂口恭平さん(作家、アーティスト。家に車輪をつけた移動でき、駐車場に置けば駐車場代だけなので家賃を節約できる「モバイルハウス」を提唱)や鶴見済さん(作家。『0円で生きる』『脱資本主義宣言』などお金を使わず生きるという著作が多い)、素人の乱(http://trio4.nobody.jp/keita/)(高円寺で松本哉氏が運営するリサイクルショップを中心に、自分たちが生きられる場所作り活動をしている)なんかが同時代に同じようなことを主張したり、実際に活動していましたよね。都市の隙間を利用して、オルタナティブ的な活動をやるということが一種のムーブメントになり始めた時代だと思うのですが。

笹尾: 個人的な話をすると、僕が就職する前後、2007~9年ぐらいに、よくしていただいていた先生に「自分に必要なことを決めて自分でしていくことが大事」と言われたのが、大きな影響としてあります。

それから、同じ頃、2つ印象的な出来事がありました。

——ふんふん。

笹尾: 学生がグループを組んでまちを歩いて課題を見つけて、地域活性化方策を提案するというワークショップイベントがあり、僕のチームは商店街をテーマに提案することになったんです。シャッターが増えてきている状況を課題として設定して、なんとかしたいと言う方向性でまとめようと思っていたら、先生から「なんで商店街を活性化せなあかんの?」と言われて言葉に詰まりました。その状況自体は喪失感的にネガティブに感じていたのに、実際に誰が困っているかがハッキリ見えてこなかったんです。自分が当たり前やと思っていたことをそうじゃないと気がついて固定観念が揺らぐ一幕でした。

——なるほど。

笹尾: もう1つは、常連だったレストランのマスターに、「勤め始めたから保険入らないと不安ですよね」という話をしていて、「なんで不安なん? 入院したらなんぼ費用がかかるか考えたことあるか?」と言われて。「その額がわかって貯金が充分にあったら、保険入らんでもええんやで」と言われて保険のなんたるかを考えるきっかけになりました。周りの多くの人が選んでいる行為以外にも、実は選択肢があることを知りました。
そうやって、思い込んでいる一個一個の行動を見つめ直すことがいいなと思いました。

——たしかに!

笹尾: それに加えてそういう大きな時代の流れの中で、人口減少に付随して、経済停滞化や公共サービスの質が低下が進んでいくといったことが懸念されてますよね。それらが背景となって、都市空間の現場では行政が民間活力導入をキーワードに公園や道路での商売やイベントを認めていくという流れが起こってきています。地域再生や経済活性化という視点では是とされるべきなのでしょうが、例えば昨日までタダでいろんなことができていた場所が、次の日から、店や施設に変わっているという状況が起こりつつあります。

——今って、駅でもちょっとしたスペースでも、どこでもお店がありますもんね。

笹尾: これまで足を運ばなかった多くの人にとっては新たにその場所に行くようになったという点ではいいことなんです。けれど、普段から使っていた少数派の人からすると、もう行けない場所になってしまったという事態になります。「人を選別しない」という視点での「公共性」が失われることになりかねません。そういうことは鶴見済さんなんかもおかしいと言っている。
水辺のまち再生プロジェクトとしても同じような問題意識を持ちながら、「自分たちでできることを勝手にやる」ということを続けていた。だから、同時代的に、素人の乱のような活動や、坂口恭平さんや鶴見済さんの主張を知った時に、自分も同じようなことをしていて、同じような流れにいるという驚きがありました。

——じゃあうまい具合に化学反応的なことが起こったわけですね。

今回は笹尾さんのバックグラウンドと「水辺のまち再生プロジェクト」の思想や活動について伺いました。次回は、「水辺のまち再生プロジェクト」の根幹である「アーバンアウトドア」の具体的な方法論について伺っていきます。

後半へつづく

インタビュアー:太田明日香(取材日:2017年11月20日)

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