川端寛之さん(前編/後編)がバトンを渡したのは、個人で造園業を営む さがひろか さん。
京都市は東山区、三十三間堂のご近所にある、まるで秘密基地のような事務所で出迎えてくれた さがさんは、小柄な体に元気いっぱいの笑顔。屋号である「HypeRelax(ハイパーリラックス)」を体現するような親しみやすさで、「造園と言えば、屈強な男性が携わる仕事?」といったイメージを、いとも簡単に吹き飛ばしてくれた。
弾ける笑いとともに、庭づくりの道に進もうと思ったきっかけや、コミットしている「大地の再生講座」の活動について、そしてもちろん右下についても、語っていただいた。
肩書きは、「楽園デザイナー」!?
——まずは、さがさんがどんな活動をしている人なのか、教えてください。
さが: はい。私は「HypeRelax(ハイパーリラックス)」という屋号で造園をやっています。いわゆる「ランドスケープデザイン」とか「ガーデンデザイン」ですね。広場やお庭をつくったり、メンテナンスしたりする分野のお仕事をしています。
——「肩書き」みたいなものってありますか?
さが: 特につけてないんです。あ、でも、最近聞かれた時に「ちょっといいかも」と思ってるのは……「楽園デザイナー」っていう肩書きなんですけど……(笑)。
——へ~! すごくいいですね、それ! ぜひ採用してください。「情熱大陸」に出られそうですね!(笑)
さが: そうですか!?(笑) 「ランドスケープ」って言葉もちょっとカタいし、庭とも限らず「楽園」をね、つくりたいと思っているので。
「楽園をつくりたい」と話すさがさん。エスニックなワンピースとアクセサリーがとてもよく似合う。
さが: あとは、一般社団法人「大地の再生 結(ゆい)の杜づくり」関西支部のメンバーになって、その活動にも3年くらいずっと関わってきています。
——「大地の再生」というのは、全国規模の団体なんですか? 「再生」ってことは、大地に何か……問題があるってことですよね?
さが: そうですね。「大地の再生」を始めたのは、山梨の矢野智徳さんという造園屋さんです。全国で「大地の再生講座」というのをやってらっしゃって、関西で講座が開催されたときに私も行くようになりました。
矢野さんは、お庭の環境で……例えば、水はけが悪くてなぜかずっと水が引かない土地があったり、木が枯れてしまったりするのは「何故なんだろう?」というところから始まって、土の中の空気と水の動きの視点が欠けている、ということに気づいたんですね。
——土の中の空気と水の動き。シンプルに言うとどういうことなんでしょうか?
さが: はい、大地が「窒息」しそうになっているのが問題なんです。その原因は、現代土木のあり方や建物の建て方にあります。日本のもともとのお家の建て方って、「石場建て」と言って、石の上に木の柱を立てて、その上に木造のお家がのっかっていて、土地を締め付けすぎないような形になっていたんです。でも、今はコンクリートで土地を固めたり、自然素材ではないお家や大きな建物を建てることがどんどん増えてきていて、道路もアスファルトで密閉されていますよね。川の護岸も工事されてコンクリートで止められていたり。日本の水の多い土地の上では、そういうもので塞がれたことによって、地下の水や空気が動かなくなってしまっているところがたくさんあり、様々な問題が起きているんです。
——なるほど、それが「窒息」。
さが: 目に見える部分の水の流れは、もちろん工学の人がそれなりに考えて決めていると思うんですけど、地下水についてはそこまで考えてないというか、「まぁ、いけるやろ」というなんとなくの感覚で、この何十年か来てしまったところがあると思います。本当はそれではいけなくて、土砂崩れなどが起こってしまうのも、そのせいもあるのではないかと私たちは考えているんです。「大地の再生講座」の活動では、お庭だけでなく、里山の再生なども積極的に行なっています。自然を観察して、その摂理に倣い、通気性があり空気が循環する環境づくりをしていくと、住宅の周りでも、山でも畑でも、爽やかで過ごしやすく災害も起こりにくい場所になるんですよ。
さがさんが講師として参加したビオトープをつくるプロジェクトの様子。
大地の再生の手法を使った「水脈」をつくっているところ。自然の地形、水の流れに沿って蛇行させると、水は早く走りすぎることなく、ゆっくり浸透しながら進む。植物が生え地形が安定するまでの補助的な役割として、炭、竹、枝葉などの有機物を使うのだそう。
大地の再生 結の杜づくり Facebookページ
https://ja-jp.facebook.com/daichisaisei/
「就職できないカラダ」になってしまった
——どうしてお庭の分野に行こうと思ったのか、ぜひ聞きたいです。
さが: もともと私、学生のときは建築の勉強をしてたんですよ。
——へぇー! そうだったんですか。
さが: 出身は兵庫県の三田というところなんですが、大学は京都です。大学のときは、建築家になりたいと思って、一応大学院まで行っていろいろと勉強してたんですけど、就職活動はしなかったんです。「みんなそろそろ就職活動してるけど、まぁいいや~」みたいな(笑)。
——性格の出るエピソードですね(笑)。
さが: ゼネコンのような大きい会社じゃなくて、小さいアトリエ系の事務所とかに行きたいなと思ってたら、就職活動しないままに卒業しちゃったんですよね(笑)。卒業してから一年くらいは、友達と3人で内装の仕事とかをしてたんですけど、学生あがりでそんなに仕事もなかったので、結局1~2回くらいやって、その後すぐに仕事がなくなってしまって、「あ、ダメだ。就職しないと……」みたいな感じになってですね(笑)。でも、就職する前に、どうしてもインドに行ってみたかったんです。
——インド! もともと海外へはよく行ってたんですか?
さが: そうですね。学生のときから少しずつ一人旅に行くようになってましたね。「たぶん会社に勤めるなんていうことを始めたら、もう一人で旅に行く時間ないと思うから、最後に行っとこう!」と思いまして。ちょっと貯金して、旅行に行ったんですよね。海外に。
——いいですねぇ。
さが: まずインド行ったんです。その後、ヨルダンやイスラエルに行って、モロッコ行って、最後にスペイン行って……みたいなコースだったんですけど、最後の方とかお金がなくなってきて、けっこうキャンプみたいな感じで過ごすときが多くて……(笑)。
——(笑)。
さが: それから、ヨーロッパの暮らしって、わりとみんなお庭でごはんを食べたりするんですけど、そういうのを見て、素敵だなと感じたりもして。私は生まれ育ったのがニュータウンのマンションだったので、そういう経験ってほとんどなくて、建物の中の暮らししか想像したことなかったんですけど、海外を見て回って、みんなけっこう道端で遊んでたりとか、お庭でごはん食べたりとか、家の外側の空間で過ごす時間っていうのが、すごくいいんだなぁって思ったんです。そしたら「あ、もしかして別にそこまで建築好きじゃないかも!?」ってなってですね……(笑)。
「外にいる方が好きかもしれない……!って思ったんです」。旅の期間は一年半にも及んだそう。
——(笑)。で、就職は、結局せず?
さが: そう。そんな感じで、旅行中に「庭とか公園とかを作る人になりたいな」というような感じになって帰って来たんですけど、その時にはもう“就職できないカラダ”になってしまっていたんですね(笑)。
——「就職できないカラダ」!!(笑)
さが: はい。人間的に、なんかもうブランクが長すぎて。帰って来て、造園業がどういうものか、どういう人がお庭とか公園とか造ってるのか、どういうとこに勤めたらいいのかってとこからわからなかったので、まずは何かとっかかりを作ろうと思って動いてみたんですけど、ちょっと勘違いしてまちづくり系のところにしばらくバイトに行ってみたりとか……。もちろんそこで学んだこともたくさんありますけど。
——そういうことってありますね。意義ある遠回りというか。
さが: あとは、おしゃれなお庭を作る造園屋さんでちょっとバイトしてみたりとかして、「就職する?」って言ってもらったときもあったんですけど、「いやっ、就職するのはちょっと……」みたいな感じで(笑)。
——本当に「就職できないカラダ」に(笑)。
さが: はい。できなくなっちゃってて(笑)。そうこうしてる間に、周りに「庭をつくりたい」って言ってたら、友達が「カフェをやるから、カフェのお庭つくって」とかで仕事をくれたりし始めて、「もしかしたら、このまま、自分でできるんじゃないか」みたいな気持ちになってきたんです。その時は、今の屋号とは別の屋号でやってたけれど、結局、そのまんま自分でやる感じになってきてて……。
——へぇ~! すごいですね。
さが: でも、その時って、何の知識もないじゃないですか。それを気にしてたんですけど、ちょうどいいタイミングで「大地の再生講座」を知ったんですね。「大地の再生講座」に行くようになったので、必要なことがちゃんと学べたと思ってます。講座では里山とかを触ることも多いけれど、対象が小さいお庭になっても理論的には同じことなので、応用が利きます。どんな環境もミクロとマクロで、相似形なので、その拡大と縮小だけ。
いまだに、一人前かと言われるとわかんないですけど、自分の感性と、矢野さんから教わったことで、なんとかやっていけてるような感じですかね。
「大地の再生講座」の参加者も、造園屋さんが多いんです。それで知り合った他の造園屋さんにお仕事で声かけてもらったり、お手伝いに行かせてもらったり、そういう感じで。なんとなく「やりたい」という気持ちだけで、来ましたね。
「場所をつくる」ことに興味があった
——なるほど。今は一人でやってるんですか? プロジェクトごとに人を集めてとかでもなくて?
さが: はい。一人でやってます。造園屋さんって、けっこうみんな「一人親方」というか、一人でやってて、人手が要るときにお互いヘルプを呼び合うみたいな感じなんですよ。
——へ~、そうなんですね。
さが: 私も、お手伝いに行かせてもらうときもあれば、人手や技術が必要なときには、できる方にお声かけして来てもらって、助けてもらうような感じでやってますね。
——建築から造園に行くのって、やっぱり分野が違うじゃないですか。「できそうだ」って思えないとなかなか一歩踏み出せないと思うんですけど、不安はなかったですか?
さが: そうですね。「できそう」と思ったと思います。もちろん建築のときに勉強したことも、つながって活きてる部分があると思うので、自分では、そこまで関係ないことをしてるって意識もないというのもありますし。「場所をつくる」っていうことに興味があったんかなと、自分では思ってますね。
あと、建築の仕事をしている友達を見てると、めっちゃ忙しそうなんですよ。まぁ、みんなそれが好きで、集中してやるから忙しくなっちゃうんだと思いますし、ほんま尊敬してて「かっこいいなー、うらやましいなー」って気持ちもなくはないんですけど、私は……そこまで働きたくない(笑)。
——(笑)! でも、すごく素直な…素直というか、自分の気持ちに正直ですよね。
さが: そうですねー。旅行から帰って来たら、もうそんなに働けないカラダになってしまってたんですよねぇ(笑)。もう今から机に向かってずーっとやるっていうのは、できないなーっていう感じでね。庭仕事ってのは、土まみれにはなりますけど、気持ちがいいし、体にもいいですし。だから、あまりそこに未練はないですね。
HypeRelaxの由来
——「HypeRelax(ハイパーリラックス)」という屋号の由来があれば聞きたいです。
これ、いい響きですよね! さがさんの雰囲気ともとても合っていると思います。
さが: ありがとうございます!
——略したりもするんですか? 「ハイリラ」とか。
さが: (笑)! いや、それはちょっと……! なんか急にチャラくなるので! 略さない方向でお願いします!(笑) つけた理由は……あんまり深く考えてないんですよね。たしか昔、これをメールアドレスに使ってた時があって、それを覚えてたんです。
——へ~。意味よりも響きとか雰囲気が先だったんですね。
さが: で、「Relax」の中の「lax」って「ゆるめる」というような意味があるし、「大地の再生」でやっていることも、大地をゆるめていくようなことなので、ちょうどいいかな~と思って。「Re」っていうのも「再生」って意味があったりするので。
——おおっ。確かに、そうですね。
さが: けっこういいかもなと思いまして。「Hyper」ってついてたら、ただゆるいだけじゃなくて、もうちょっと元気なイメージとか楽しそうなイメージも加えられるかなぁと思って、この名前にしてみました。
——すごくいいと思います。「HypeRelax」の「楽園デザイナー」、さがひろか。
さが: 大丈夫ですかね~?(笑)
——最初は右下でしか受け入れられないかもしれない(笑)。
さが: そうかもしれないですね〜(笑)。あんまり深く考えてなかったですけど、“ちゃんとした大人の方”とメールのやりとりをする時に、宛名が「ハイパーリラックス様」とか書いてあるのを見て、「あぁっ…!なんか、ごめんなさい!」みたいな気持ちになるときはありますね(笑)。
HypeRelaxのホームページのロゴデザインには、無限を表す記号が。
「『循環』を表現する無限のマークが好きなんです」と、さがさん。
HypeRelax
https://www.hyperelax.com/
さがさんのお話を聞いていると、随所で「そこまで深く考えてはなかったんですけど」という言葉が出てきました。その言葉と表情から、感性や直感で生きているという感じが伝わってきて、とても気持ちがよかったです。
後編では、どんなことを大切にして活動しているかや、右下のどのあたりかを伺います。
インタビュアー:徳田なちこ(取材日:2018年9月3日)