2019.01.25

Interview

ここここ|うえしばえいじさんインタビュー(後編)

前編ではうえしばさんの半生についてお伺いした。後編では、うえしばさんの活動でもいろいろなメディアで取り上げられた豊中こどもれもねいど(2019年で終了)を中心に、成果や今後の活動についてお伺いしていく。

地域農業×子ども×チャリティー=豊中こどもれもねいど

豊中こどもれもねいどは、豊中のレモンを使って子どもたちがレモネードを作り、それを自分たちで販売して売り上げをチャリティーに寄付するという取り組み。地域農業と子どもとチャリティーという例にない取り組みが評価された。2016年から始まり、2019年をもって終了する。大きな理由のひとつは、去年の秋の台風でレモンの木が折れたり、設備がこわれたこと。

企画のきっかけは、うえしばさんのご自身のお子さんがお店屋さんごっこが好きでその機会を作りたかったこと、地域農業の問題点を知ったことなどがある。

欧米では社会活動の一環で、子どもがレモネードスタンドでレモネードを売って、自分でお金を稼いだり世の中のお金のしくみを学ぶ取り組みがあり、それにアレックスレモネードスタンドというレモネードの売り上げを寄付する活動を掛け合わせ、売り上げをチャリティーにまわすという仕組みを作った。

さらに、地域農業がもつ高齢化や農地の減少といった問題を知り、畑と街を子どもが繋ぐような、1年中畑に行って作物がどう育つか知るプログラムも取り入れた。

「子どもが農地と街をつなぐっていうのがポイントなんです。」とうえしばさんは言う。子どもが農地で遊んだ思い出をたくさん作ることで、将来農地がなくなりそうな時に、畑の持ち主に協力して一緒に守ってくれる人を作りたかったそうだ。

(最初の年の収穫の様子。豊中こどもれもねいどのブログ「豊中こどもれもねいど・収穫&シロップ作り【1204-】」12月5日の記事より)

2018年のシロップ作りの様子(豊中こどもれもねいどのブログ「豊中れもんシロップづくり2108」12月4日の記事より)

キャラクターの家族構成はうえしばさんの家族がモチーフ。うえしばさんのお子さんは兄妹だけれど、キャラクターでは姉弟に。

スポーツ新聞で目立つチラシ。キャラやチラシやロゴといったキャッチーな見せ方はライブハウスでの経験が生きているという。

お金を稼ぐことだけが「働く」ですか?

——豊中こどもれもねいどは今年で終わりだそうですが、今までやってきてどうでしたか。

うえしば: 実際こういうコンテンツ作りをやってみて、これぐらいの規模なら自分でできるという仮説検証みたいなことができてよかったです。この3年で何か解決できたり新しいものが生み出せたかっていうと全然なんですけど、地域のことを考えるきっかけにはなりましたね。

いちばん学んだことは、地域に対して時間を使って価値を生んでいる点では、こどもれもねいども「働く」ことなんだなってわかりました。働くって、みんなにとってはお金を稼ぐ手段ととらえているけど、僕の中ではどっちかっていうと働きかけるって言葉に近い。

——働くだとお金を稼ぐ意味で、働きかけるってアクションをおこすって意味に近いってことですか。

うえしば: うーんと、自分の生活圏の中で時間を使って、その圏内の中で価値を生んでいるということかな。価値って、ゼロから100とか作ることだと思われていますが、そうじゃなく相手が困っていることをなんとかしたり、穴を埋める形で、価値を生んでいる。自分がこういう地域にしたい、という自分の願望じゃなくて、相手に求められていることをする。その方が求められていることをするから価値は高い。

——その社会に欠けているものを埋めるから喜ばれるってことですね。

うえしば: そうそう。足りていないから埋まれば喜ぶ。それに価格が生じてない場合もある。こどもれもねいどもはお金は生じてないけど、地域的には欠けていることをやったから価値は生じている。

価格が発生しなくても価値は必ず発生しているのに、みんな価格ベースで見るから、価値を過小評価してしまうんです。こどもれもねいどが、全然儲からなくても、価値はあるし働いていることになる。

——自分がしたいことよりも人に喜ばれることをした方がいいっていう。

うえしば: そうそう。自分がしたいことに時間を投下するより、みんながしてほしいと思うことに時間を投下したほうが、働いていると捉えられる。価値があることをしていると感じてもらいやすいんです。

——そういうのを実際の商売にも応用したりしてるんですか。

うえしば: 例えばうちは、ただで傘を貸してるんですよ。そうしたら絶対返してくれる。だからお金を払って傘を貸してしまうと、価格によって傘が交換されてしまうので、返ってきにくくなる。でも、ただで貸すことにすると相手はそこに価値を見出して、返しに来てくれて、なんならコーヒーも飲んで行ってくれる。

価格にならない価値をどれくらい作っていくかも、ひとつの働き方なのに、みんながお金に変えることを「働く」と捉え、金額で自分の働きを算出するからむちゃくちゃもったいないですよね。それで結局働きと額が見合わないからモチベーション下がってやめちゃう。

——まあでもみんなそういうふうに「働く」ことを捉えていますよね。

うえしば: でも、その時すぐに価格にならなくてもいいんですよ。

よくなんでやっているの?って言われるんですよ。別にこどもれもねいどは参加費や年間費(100円)で稼いでるわけじゃない。それでもやる理由は、価格には反映されていないけれど、相対的な大きな価値を生んでいるからと答えますね。

例えばこれからクラウドファンディングや、僕が何かしたいと言った時に、こどもれもねいどで繋がった人から何かが返ってくる率が高いんですよね。それはこどもれもねいどで得た価値がすごくあるから。

でも、イベントのたびにお金と等価交換していたら向こうもその時点で決済は終わってしまう。例えばこのイベントに1000円かかる価値はあるのかとか、あったら行くけどなかったら行かないっていうふうに。

その時点で損しているように見えてもこどもれもねいどについて話すことでギャラが発生するとか、自分が何かしたい時に借りることができて買わなくてすんだなんてことがあって、本来使うべき1万円を使わなくてすんだなんてことがあるんです。

——どっちかっていうと恩のやりとりって感じですね。

うえしば: 恩返しと恩送りを繰り返しているという感じですよね。返ってこない恩だったら与えないというスタンスでいるともったいないですよ。例えばやっぱり働き者って言う時は、自分のために稼いでいるやつより、みんなのために頑張っている人のことを指すでしょ。

年収が高いから働き者とか、長時間労働しているから働き者って言わないじゃないですか。やっぱり、みんなが困っている時に来て手伝ってくれるような人のことを働き者って言うと思うんですよ。なので、僕は働き者になりたいなって。

——なんか「雨ニモ負ケズ」の宮沢賢治みたいですね。困っている人のもとにかけつけて助けまくるっていう。じゃあ、これからどういう方向性で「働き者」になろうと思っているんですか?

うえしば: わかりやすく言うとコンサルタントみたいな方向で考えています。コンサルっていうと、偉そうに聞こえるからあんまり好きじゃないけれど、わかりやすくいったらそんな感じです。個人のエンパワメントをしたい。

今は喫茶ピーコックが生活のベースにあって、そこで現金収入を得ているから生活できているので、店は人にまかせて僕は浮いた時間で人の事業や市民活動みたいなものの相談に乗ったり、困りごとに対応したい。

——そしたら結構いそがしくなりますね。

うえしば: そのためにいろいろなイベントもやめることにしました。こどもれもねいどもそうだし月一でやっていた映画上映会も(上映会は4月末まで)。

自分で企画して動かしていると、すごく時間を使っちゃうので、自分の主たるコンテンツはなくして、周りでやっていることに今まで培ってきた方法論だったりノウハウみたいなのを提供する側に回ろうと思ってます。

今までは、自分がなにか面白いことを考えてそれを大きくしていたけれど、それをすると、時間がなくなっちゃうんで、時間をめっちゃ作ってその時間をできるだけ細切れでいろんな場所いろんな人やいろんなことやっている人に使って、広めていこうという感じですね。

今も人の相談を受けることが増えてきてるので、ちょうどいいなって思います。コンサルタントって、人の事業に対してちょっとずつコミットしているから、いくつも一気にできるからいいなって。どこまでできるのかわからないですけど。

——それは楽しそうでいいですね。長いことお話を聞かせていただいてありがとうございました。

改革より回帰、共生というより一人が好き

——そろそろまとめに入ろうかなと思っているんですけど、自分が右下のどのへんだと思いますか?

だいぶ左下(現状より)に近いところを指さしたうえしばさん。

うえしば: 僕は改革っていうより元に戻る感じかなあ。よく村の話をするんですけれど、江戸時代あたりがちょうどいいんですよね。勝手な想像でちゃんと文化を調べたわけじゃないんですけれど、江戸時代のちょっとした町とか村とかって貨幣の流通量ってそんなに多くないと思うんですよ。

——聞いたことあります。

うえしば: さっきの話と一緒で、落語とかで想像してもらったらわかるんですけど、基本町の人たちが暇してて、ちょっと助けてとか困ったということが起きて、みんなが行くみたいな。

労働時間で言ったら、四、五時間働いたら暮らせるような感じ。そのかわりみんなの困っていることをやるわけだから価格は低くても価値がめちゃくちゃ高い。僕はどちらかというと改革とか変えることより、地域の保全や、その中で何かして地域をよくしていく活動をするみたいな感じかなあ。

——前に登場したさがひろかさんもムラっぽいのが理想っておっしゃってましたね。じゃあ現状維持というより、回帰ですね。

うえしば: そうですね。回帰と言えば回帰。でもある意味改革と言えば改革かも。今は「働く」って現金を稼ぐことってなっているでしょ。国を維持するのには税金が必要だからそれが大事って教える。でもみんなが価値重視になると、税金があがってこないので、めちゃくちゃ大変になるから、そっちの価値観の方が重視されるのはしょうがないのでしょうけれど。

——みんなが価値思考になったら誰もお金を稼がなくなっちゃうから、改革ってことですね。ちなみに自分のやっていることって右下っぽいと思いますか?

うえしば: わからへんなー。でも、過去の話からずっと一貫してやっているのは、自己の探求というか、自分の中での仮説検証をしている感じがするんですよ。逆に、自分のやっていることで人を巻き込んで大きなムーブメントを作ろうみたいなことは全然興味ないですね。

——原発なくそうみたいな?

うえしば: そういうのは一切ないですね。でもヒッピーみないな感じだとめっちゃ右下の下の方で改革って感じじゃないですか。現代のシステムから離れて暮らすのはすごいけど僕はやっぱり街で暮らしたいと思うし。

僕は新しいステージやフロンティアを作るよりは、日常の延長線上でうまくやる方法があるんじゃないかを模索する感じですね。

競争か共生で言うと、まあ共生でもないかなあ。一人が好きなんで。

——でも街に住むって一緒にやっていかないと生きられない感じがありますけど。

うえしば: 主としているは自分なんで。競争じゃなく共生思考やけど、共生の中では低い方かなあ。自分を中心に考えているところがある。自分がよければいいという訳じゃなくて、自分の範疇でしかあまりしないですよね。身の丈志向っていうか。

だから、まわりを巻き込んだ改革は興味がなくて、でも自分の中で自分が変化していくことは楽しんでいます。

——確かに5年ごとぐらいにやることが変わっていっているのは面白いですよね。

目指すところは究極の暇人

お父さんの代は喫茶店として使っていた場所を現在は亜論茶論という名前で開放している。将来はシェアリビングにしたいそうだ。

うえしば: 何か楽しいことないかな、と思った時が一番楽しい。飽きやすいというのもあるんですけど。興味も移っていくし。なんの仕事をしているとか、月になんぼ儲けているとか、お金があんまり興味ない。でも、この価値を生みたいとか、相対的な価値が高いことをしようというのはあるから、働きたいのは働きたい。

——なんか面白いですね。

うえしば: 究極はお坊さんですよね。僕が憧れるのって江戸時代の町人とお坊さんなんですよね。お坊さんて何か地域でいて、何かあったら働くじゃないですか。この人いなくなったら、困るよねということになるから、檀家さんがいたり、檀家さんってファンクラブで、托鉢ってクラウドファンディングみたいな感じです。

——うまいこといいますね。

うえしば: それをこの自分の生活に落とし込むと、僕はここで本を読んだりブログ書いてたら誰かが来て話をしてく。落語みたいな世界ですよね。

でもそれをするためには、圧倒的な暇がいるんですね。凄まじく暇人でないといけないので、暇を作るには自分が主とする活動はやっていない方がいい。だから理想は好奇心旺盛で器用貧乏な暇人。いろんなことに興味があって、行ったらいろんなことがちょっとずつできて、その都度助けられる。重いものも持てるし、田植えもできるし、壁も塗るし、畳もひっくり返すしっていう。呼ばれたら行って、いい仕事をして、感謝されて帰ってくる。それでここでまた本を読んでいるという。それが理想ですね。

——私もそんなんがいいな〜。

うえしば: 極端な話、自分がこうありたい、なりたいという、欲がないほうがいいんです。すごい大きな受け皿みたいな感じでいるのがいい。自分の趣味とかやりたいことにめちゃくちゃお金をかけたり、時間をかけるよりは、周りの人が喜ぶことに時間をかけたほうが、相対価値が高い。価格に変換した時も高くなりやすい。だから目指すところは宮沢賢治とお坊さんと江戸の町人ですね。

——いい感じにおさまりました。

このサイトがオープンして一年半近くになりますが、以前にインタビューに登場したさがひろかさんの目指すは「ムラ」や、釜中悠至さんの「目指すは住職」と共通する発言も飛び出したりして、なんとなく右下的な思考っていうのが見えてきたような回でした。

個人的には服部駅前のレトロな感じやピーコックの地元に愛されつつ一見さんも入りやすい感じなど、いい感じに昔の感じを残しながら新しい人も混じり合いつつオープンな感じで居心地よかったです。そこにシェアリビングができたらどんな感じになるんだろと、楽しみになりました。

うえしばさん、ありがとうございました!

インタビュアー:太田明日香(取材日:2018年12月3日)

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