2019.10.22

Interview

ここここ|藤田ツキトさんインタビュー(後編)

編集委員の一人である藤田ツキトさんの2年ぶりのインタビュー。前編では右上の旅にでてみた様子をお話いただきました。後編ではその結果、お仕事が実際どのように変わったのかをお聞きしたいと思います。

ある程度上まではいける

——右上の旅に出てみて、どうでしたか?一番の違いを感じたところを教えてください。

ツキト: 例えばですけど、右上の人たちと付き合おうと思ったら会費が10倍になるイメージでした。笑
右下にいると3,000円なところが、30,000円になるからやっぱりお金が必要になるということを実感しました。

——リアルな数字ですね。

ツキト: 思考が右上の方に行き過ぎていたときは共生思考という価値観に全く共感できなくて、右下っぽいことが何言ってるかわからないって思うようになっていました。

——むしろ今までツキトさんが言われてこられたセリフのようですね。笑

ツキト: そうです。笑
そして今回僕は思考を右上に飛ばして、行動としてもチャレンジしてみたけど、実際はそんなに短期間で行けるところではないということを改めて理解しました。けど、ある程度上までは行けるということも実感しました。

——実際のお仕事としてはどうだったんでしょうか?

ツキト: 仕事は実際に右上には行けていないんですが、大阪にたくさん訪れているインバウンド観光客を対象にした観光の事業をやってみました。お金を銀行から借りて投資したのですが、見事に失敗したんです。たまたま共同でやらないかという話をいただいたところに、すぐ飛びついてしまってノリと勢いで頑張ったのですが、成功させるためにはもう少し考えたりする部分も必要だったと思いました。

——一旦右下に戻られてからそう思われたということですね。

ツキト: 本当は地道に上がる方がいいけれど、今までの自分では右上と右下の境目に壁を感じてしまい、いつまで経っても突破することはできなかったと思うんです。でも、今回は思考だけでもだいぶ上を攻めることができたので、次はちょっと上くらいなら簡単に行けそうだなという感覚を得ることができました。

頑張って仕事をする

——お金を稼ぐことへのジレンマは脱却されたんですか?

ツキト: 当たり前のことなんですけど、今は頑張って仕事をしようかなと思っています。

——今はどういう仕事をされてるんですか?

ツキト: デザイン会社なので、商業広告が半分と、もう半分は行政企画の仕事をしています。行政の仕事の特徴として、お金の未払いは絶対にないですけど、回収が遅い場合があるんですよね。例えば夏から事業を実施したとしても支払いが翌年3月の年度末の後とかの場合もあるので、うちのような小さい規模の会社で数百万円の仕事をしてしまうとお金が回らなくなくなってしまうんです。それが今まで行政の仕事をしにくいところでした。

今年は東淀川区さんの広報紙を受託をすることができたんですが、これは毎月制作できるのでありがたいです。

——毎月なのはいいですね。

ツキト: 安定するんですよね!今までは自分の価値観の中での面白さばかりを追求して、広報紙のような編集業務の面白さを感じられずにいたので、今は1つの広報紙しか担当できていないですけど、来年は2つか3つ受託できれば安定した経営ができるのではと考えています。会社としては当たり前の話だと思うんですけど、今まで自分の思考がそこに至っていなかったんです。安定を求めすぎると大事な何かを失ってしまうかもしれないという恐怖感もありました。ちなみに今は、自分たちが直接行政の仕事を受託していなくても、受託事業者さんから広報デザインで声をかけてもらうことも増えてきました。このチラシは事業自体は別団体が主体なんですがデザインで関わらせていただきました。

——大きな転換ですね。

ツキト: 観光の事業に投資していた時期は、広告の仕事はほとんど断ってしまっていたんです。余裕もなかったけど、目指す道ではないと思い込んでいました。定期的な収入という意味ではありがたかったのですが、右上を目指すためにも振り切ったほうがいいんだろうなと思っていたので、成果が上がらない時は病みそうでした。実際に、体調も壊しましたが・・・。

——回復されてよかったです。エリアとしては大阪が主体ですか?

ツキト: 今のところ大阪が中心ですね。大阪をまずなんとかしたいと思ってます。具体的には、東成区、港区、東淀川区、少し離れて八尾市の仕事もさせていただいています。地域団体やイベントPRの依頼もほとんどが大阪ですね。

求められたら動く、パートナーを目指す

——関わりをもたれる街はどうやって決めているんですか?心惹かれるところがあったりするんですか?

ツキト: 行政の仕事に関しては、自ら積極的に動かなくても縁を繋いでくれる人がいれば繋がっていくと考えています。今年は広報紙の仕事をしたいと思ったので、プレゼンした6つの区については、自分がその街に興味があるかではなく、仕様書を読んで「もっとよくしたい」「変えていきたい」という思いがあるかと、それに見合った予算があるかを見て決めました。今までは自分から面白さを求めていってたんですが、今は求められたら動くというモードに少し変わりました。

——求められたら動くというのは前回のインタビューでもお話されてましたね。

アートとデザインの考え方の違いとして、求められているものに答えるのがデザインで、好きなことをやってみるのがアート、その両方をやるのがまちづくりなのではないかという内容でしたね。

ツキト: いいこと言ってますね。笑

けど、右上の旅にでてたときは、自分の言ってたことを無視して、求められるデザインの仕事は切って、変な使命感で動いてましたね。そしてまちづくりより観光の方が儲かるっていう考え方でしたね。本当は観光に取り組もうと思ったらまちづくりにも関わるんですけど、そんなことは後からでいいというスタンスになっていました。

今は、求められることにデザインという手段で関わりつつ、その中にアート、つまり自分の企画の要素を持っていきたいと考えています。言われたものだけをつくるデザインはときに必要ですが、そればかりだと下請け業者のように抜け出せなくなって、右上にいけなくなってしまうんです。

仕事をいただけるところがあれば、そこに対して自分たちが考えていることを企画提案しながら、求められるものを作ると、下請けではなくパートナーのような関係になれるので今はそれが一番よいスタンスだと考えてます。自分の会社がまず上に行こうというおこがましいことは今のところ考えてなくて、現状を積み重ねて少しずつ上に上っていくイメージです。

——上への目指し方のアプローチが変わったんですね。

ツキト: 右上に行ってから一旦右下に帰ってきて、また徐々に右上を目指している状況ですね。自分の軸はやっぱり右下に置いておきたいというのは帰ってきて改めて認識しました。けど会社としては今度はこの左上の角も見ておきたいと思っています。
そして本当は一人の力ではなく、みんなの力でこの右下をだんだん拡張させたいと思ってます。

——左上の角ですか。

ツキト: 自分の会社は右上に少しずつ上がっている所だと思うので、今後左上の会社(おそらく上場企業とか?)ともお付き合いできるようになってみたいです。今は直接パイプはつながっていないのですが、右側は自然と左の方に移行していくので、左下的な行政や右上の会社とやり取りをしながら左上の企業と何かできる機会を探っています。

右下出身者をあちこちに

——右下を拡張する作戦についてなにか具体的なイメージはありますか?

ツキト: 右側の人は自然に左に移行していくので左側へ拡張はあまり重要視していません。しかし右下から左上に行く場合はまず右上を目指さないといけないと思っています。前編でも触れた武田緑さんが言っている「影響力」とかは、この右下に居続けてはいけないと気づいた人の行動ではないかと思っています。上へのアプローチの仕方はいろいろあるので。
右上を目指す人に対して、右下にいる人は「あの人は変わってしまった」と言うのではなく、また何かできる時期が来るかもしれないのでそのタイミングを待つのが大切ですね。
相撲部屋みたいに、○○出身とか書いておいてもいいかもしれないですね。右下出身だけどしばらく上に行くために移籍しましたとか。笑

——そうすると話が通じやすいかもしれないですね。

ツキト: ここここの図の難しいところは時代によって変わっていくということだと思います。ここここメンバーも同じ関係では居続けられないというか、卒業していったりもあると思います。
僕自身は2025年の大阪万博の頃には右上に足を突っ込んでいたらいいなと思っています。万博の仕事をしていたら多分そのときは左上に足がかりを見つけられている感じですね。笑

——その頃が楽しみです。

ツキト: 右下出身の人たちがが思いも寄らないところで再会したりすると、そこでまた新たな何かが動き出すかもしれないですし。笑
少し長くなりましたが以上が僕が右上への旅を経験して見えてきた世界です。
他の編集委員もそれぞれいろんな形の旅をしてると思います。

——またそれぞれのインタビューが楽しみですね。

ありがとうございました!

インタビューの後も聞きにこられた参加者の方との質疑が続きました。社会に漕ぎ出していこうとする大学生からの悩み相談から、いろんなことを「ここここ」図で考えてみることを試してみたいという声まで。

自分の行動の理由なども「ここここ」図を通して相対的に見ることで気づくことがあると個人的にも感じました。

インタビュアー:奥井希(取材日時:2019年7月20日)

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